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英国金融界の現在の課題とは何か? 最近の英国・欧州の経済情勢と英ポンド・英国債の今後のリスクについて その5

  • 投稿日:2012年8月28日

「読めば明日の力になる 個人投資家の世界の経済・金融研究日記」

最近の英国・欧州の経済情勢と英ポンド・英国債の今後のリスクについて

その5 英国金融界の現在の課題とは何か?

2012828日(火)by Dataと小勝負(AOIAアナリスト)

英国ロンドンの金融街シティーの国際金融センターとしての存在感は、確かに圧倒的です。英国は外国為替の取引額で世界の4割弱、クロスボーダー(国家間)銀行貸し出しでは約2割と、世界一のシェアを握っていて、実は私達個人投資家にも、結構関係があります。

英国にとっては金融・不動産業は最重要産業で、国内総生産(GDP)の3割強を生み出し、税収の1割強を稼ぎ出してもいますが、最近は雲行きが怪しくなっています。

2008年のリーマン・ショックで受けた大打撃は、銀行の国有化や市場の安定化策で何とか乗り切りましたが、今年に入り金融シティーの信用を揺るがす不祥事が、相次いでいます。

今春に表面化した米金融大手JPモルガン・チェースの巨額損失問題は、「ロンドンの鯨(くじら)」と呼ばれる大物トレーダーが引き起こした不祥事でした。LIBOR《ライボーと読む(ロンドン銀行間取引金利)》の不正取引問題では、英大手銀行のバークレイズがまずやり玉に挙がり、巨額の罰金を払わされましたが、この問題は世界中の主要銀行に波及する可能性を秘めています。

LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)とは、主要銀行が短期金融市場で資金を貸し借りする時の金利で、世界中の金融取引の基準となる重要な金利の事ですが、自己申告制なので操作は可能とされています。

それを勝手に変動させたらどうなるか?LIBORを基準とする金融取引は企業向け融資や住宅ローンなど、およそ300兆ドルにも及ぶだけに、事態は結構深刻です。

今回の不正取引問題では、中央銀行であるイングランド銀行の関与まで疑われた為、英国金融街シティーの信用力は、根底から揺らいでいます。

世界中が信頼する中での不正は「金融のプロ」たちの暗黙の仲間意識と強欲さがなせる業なのか、徹底解明が必要です。英金融当局は監督体制を強化するといっていますが、これは不正を見逃した金融監督の失敗でもあります。英金融当局任せにせず、国際決済銀行(BIS)や国際通貨基金(IMF)などによる監視も、求められるところです。

金融の規制緩和、デリバティブ(金融派生商品)の拡大、超金融緩和の推進もあり、いまや世界の金融資産は全世界の経済規模の実に3.6倍にも膨らんでいます。ごくわずかにみえる不正が、デリバティブの世界では、望ましくない巨額の利益を生み出してしまいます。

英国はもともと慣例法の国で、明文化した規制や法律より、取引慣行や紳士協定が影響力を持ちます。これを支えるのは、「フェザータッチ」と呼ばれる金融規制です。「自主規制と紳士協定がしっかりと守られている前提があって、初めて機能する」規制だけに、一連の不祥事が起こる一因ともなってしまい、信頼回復はそれほど容易な事ではありません。

苦しい立場に追い込まれている英国は、経済の要であるシティーを守る事が、国家の優先課題です。その意味では大陸欧州に渦巻く金融批判にも、気をもまざるを得ません。例えばフランスのオランド大統領が提案した金融取引税(トービン税)は、金融取引の縮小につながりかねないだけに、断固反対する姿勢を隠しません。

預金保険制度や金融監督の一元化を目指す「銀行同盟(ユーロ圏全体での銀行預金保険や銀行の監督、経営難の銀行の資本増強や破綻処理に関する共同の対策など)」についても、距離をおいています。

金融批判を繰り広げる大陸欧州と行動を共にし切れないのが、金融立国英国の課題かもしれません。

そして、世界の金融機関は欧州危機の影響もありロンドンの人員を削減し、2008年の信用危機後の雇用回復基調も、終わりが見え始めました。金融街シティーでは特に厳しい合理化が行われる見通しで、実に2万5,200人もの関係者が失業する可能性があります。

その一方で、あのウォール街を擁するニューヨークでは、若干ながら増員する方針です。

ウォール街もトレーディングやディールメーキングの世界的鈍化の影響を受けてはいるものの、北米の銀行は消費者向け融資の増加から利益を受けているのが、強みです。

時価総額で欧州最大の銀行の英HSBCホールディングスは2012年4月に、経費抑制策に基づき本国の英国市場で上級・中間管理職を中心に3,167人の削減計画を発表しました。ドイツ最大の銀行のドイツ銀行は先月、投資銀行部門の1,500人を含む約1,900人を合理化すると、発表しています。

2012年8月16日付の英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙によると、更に悪いニュースがあります。

英大手銀行のスタンダードチャータードが先週、核開発疑惑があり欧米諸国などから経済制裁を受けているイランとの不正取引を、米ニューヨーク州当局に指摘されて業界関係者を驚かせましたが、同行の対応も同様に驚きをもって受け止められました。「事務上のミス」から態度を一変させ、和解で決着させたのです。

ニューヨーク州金融サービス当局(DFS)が、同行のニューヨーク州での営業免許を取り消すリスクを懸念し、解決を急いだようです。

DFSの主張によると、同行のイランとの不正取引額は、2,500億ドルにも上ります。

関係者によると、同行はイランとの取引の99.9%が合法だったという点は断固として譲っていませんが、結局、スタンダードチャータード銀行は、3億4,000万ドルの和解金を支払う見通しです。

「スタンダード銀行が米ニューヨーク州で1日に決済しているとされる1,900億ドルに上る取引額を維持するのに、3億4,000万ドルという金額はそれほど多額ではない」との見方もありますが、これで一件落着とも言い切れません。

まず、DFSもスタンダード銀行も、3億4,000万ドルという和解金の算出根拠を何も示していないため、和解金がいずれ増加するリスクがあります。DFS以外にも米4当局《米財務省、米連邦準備理事会(FRB)、米司法省およびニューヨーク検察当局》がなお同行の調査を継続中のため、同行は今後数カ月以内にさらなる罰金を科される可能性さえ、指摘されています。

なぜ英国の金融界でこうした問題が最近になって続々と表面化しているのかについては、

「金融界の主導権を確立したい米金融界(ウォール街)の策略では?」との見方も有力視されてはいるようですが、「火の無い所に煙は立たぬ」の諺(ことわざ)もあります。

これを機会に、英金融界がよりバランスのとれた活動をしてくれる事を、願っています。

今後、英国の主要銀行は本当に、罰金や訴訟リスクに耐え切れるのか?

財政収支も経常収支も成長率もユーロ圏の平均より悪い英国の国債が、いつまでもトリプルAを維持できるのか?

今後の展開次第では、危機の連鎖は英国の経済・金融界でも、起こりかねないのです。

今回は、以上になります。

次回はいよいよ本シリーズ最終章です。テーマはずばり、「英ポンド・英国債の今後の見通しについて」で、投稿予定日は明日(2012829日)です。

【※】当ブログ記事は、AOIA 株式会社のスタッフが個人的予測に基づき作成した資料であり、金融商品取引法に基づく開示資料ではありません。当資料は、飽く迄もAOIA株式会社のスタッフが個人的予測に基づき作成した資料であり、その正確性・完全性を保証するものではありません。当資料中に記載している内容、数値、図表、意見等は資料作成時点のものであり、今後予告なく変更することがあります。当資料中のいかなる内容も将来の投資収益を示唆ないし保証するものではありません。当資料をもとにお客様が金融商品取引行為を行われた場合、金利、通貨の価値、金融商品市場における相場その他の指標に係る変動を直接の原因として生じる利益あるいは損失は、すべてお客様に帰属します。


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