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2012年8月7日 原油相場が今後は暴落しにくい理由とは?

  • 投稿日:2012年8月7日

「読めば明日の力になる 個人投資家の世界の経済・金融研究日記」

2012年8月7日 by Dataと小勝負(AOIAアナリスト)

原油相場は今年も、需給とは無関係に乱高下気味の様ですね。

今まで一度も実現された事がない、イランの「ペルシャ湾機雷封鎖の可能性」をネタに、

一時は原油価格が高騰し過ぎ、インドなどの新興諸国の経済にも負担となりました。

中東情勢がある程度落ち着きつつある現在ですが、将来また2008年のリーマン・ショック後の様に、半値前後まで暴落する事はあるのでしょうか?

幸い、その可能性は低そうです。我々個人投資家にとっては資産価格の安定は歓迎なので、

それほど悪いニュースではなさそうですが、その裏事情は意外と複雑な様です。

2012年7月中旬には、エネルギー関係者の間に大きな衝撃が走りました。恐れていた中国のエネルギー需要の急減速が鮮明になったからです。中国の産業活動状況の目安である電力需要量が、2012年4月には前年同月比3.6%増と、2012年3月の同7.0%増から、更に大幅に低下しました。

リーマン・ショック後の世界経済発展の推進力となった中国の予想以上の景気低迷は、石油消費の中国特需の消滅を意味し、本来は原油価格急落の決定打となりかねないものです。その割には「原油価格急落」のニュースはそれ程ありませんでしたが、一体何があったのでしょうか?

確かに、2012年5月以降に下げ足を強めていた原油価格はこれを受けて、北海ブレント原油が1バレル125ドルから一時は100ドル割れへと、25ドルも急落しました。エネルギー専門家の一部には、「米国国内で活発化中のシェールオイルの増産を食い止めるために、原油価格のさらなる下落を誘って中東産油国が原油増産を強行する」との予想があるのは、原油市場の先行きの不透明感の為です。

しかし、1バレル100ドル以上も暴落した戦後最悪ともいわれるリーマン・ショック時との大きな違いは、原油先物市場の構造が大きく変貌し、世界の石油需給の状況と原油価格の間に、密接な相関関係がなくなっている事です。原油市場はもはや、需給関係を正確に反映した通常の「市場」とは呼べない物に、変わりつつあります。

原油の九割以上は国家管理下に

世界経済の主役となった中国の石油需要の伸び率は鈍化していますが、石油需給関係だけでは原油価格が暴落しないところが、昨今の国際原油市場の複雑なところです。2010年12月のチュニジアに端を発する「アラブの春」によって、中東産油国は国内の社会情勢安定化のために、公務員給与の引き上げ、社会保障費の増額等の社会福祉政策の充実や治安機関増強などに、巨費を投じて来ました。その結果、財政を均衡させる原油価格水準は、何と1バレル70~80ドルにまで、既に切り上がっています。

ロシアに至っては、不人気なプーチンの再選の為に、これまた多方面のばらまき政策を選挙公約してしまい、1バレル100ドル程度では、国家財政はほぼ確実に赤字です。米国を中心にシェールオイル革命が進んでいるといっても、世界で最も生産コストが安い油田は、依然として中東に集中しているのが現状です。

サウジアラビアの陸上油田の生産コストは、1バレルわずか4ドル程度です。サウジアラビアは、イラン危機に乗じて原油生産量を日量1,100万バレルと30年ぶりの高水準に引き上げ、年間4,000億ドル(約32兆円)という巨額のオイルマネーを手にしています。まさに濡れ手で粟(ぼろ儲け)の状態です。とはいえ、人口急増下で手厚い社会保障を維持するために、原油価格が1バレル80ドルを割り込む状況は絶対に容認できず、原油価格が下落すれば、欧米先進国の反対を無視してでも、減産に踏み切るでしょう。

このサウジアラビアに代表されるように、世界で今まで主役の石油資源の埋蔵状況を見ると、原油埋蔵量の何と九割以上は産油国の国営石油企業が保有し、いまや大部分の石油資源は、広い意味では国家管理のもとにあります。つまり、原油供給の大部分は今も産油国政府の意思が強烈に作用しているのです。

欧米の石油メジャーが自由に開発できる石油資源は、驚くべき事にわずか7%に過ぎません。世界で最も自由に油田開発ができる地域は、米国メキシコ湾とカナダですが、メキシコ湾深海部油田の水深は2,000~3,000メートルを超え、生産コストは1バレル60ドルに達します。カナダのオイルサンドもほぼ同水準です。

その結果、現在の状況では原油価格が1バレル60ドルを割り込むと、米国とカナダの原油生産が減少し、原油価格の下支え要因となります。米国の原油生産が減少すれば、原油価格決定権は中東産油国の手に再び戻ります。

原油価格が下落したといっても、2012年7月時点で北海ブレント原油価格は、1バレル100ドル超の水準を保っています。本来なら、欧州債務危機と中国経済の鈍化を受けて、以前の状況なら原油価格はすでに暴落していても不思議ではありません。しかし、イランの核開発を巡る欧米先進国とイランの間の緊張関係に、何ら進展はありません。忍耐のレベルを超えたイスラエルによる、イランの核施設空爆の可能性も依然として囁かれています。

しかも、国際的に見て孤立気味のイランにとっての数少ない同盟国シリアは、内戦激化で政府の存続が脅かされています。

イランの核開発問題、さらにはシリアの内戦が終息を見ない限り、近年原油市場を翻弄してきた投機資金も、原油先物の「売り」の姿勢は取りにくく、原油価格が大幅に下落しない原因となっています。

結局、当面は1バレル60~80ドル以上の高値が続く見通しです

7月1日から欧州連合(EU)による原油輸入禁止の制裁が始まり、イラン原油の輸出量は日量100万バレル以上も減少しています。EUは、原油タンカーの再保険も制裁の対象としており、アジア諸国にとってもイラン原油のタンカー輸送は、すでに困難な状況です。

米国のシェールオイル革命は、中国、欧州にも広がりを見せているのは確かですが、中国でシェールオイル生産が本格化し、世界の原油市場が激変するのは早くても2020年以降だと、現在は見られています。シェールオイル開発ブームに沸く米国でも、石油消費量日量2,000万バレルのうち同1,100万バレルは外国からの輸入に依存しているのが現状で、米国産原油の輸出でアジアの石油需給が緩和するには、まだまだ時間がかかりそうです。

当分の間は、世界の石油需給とかけ離れた理由で、原油価格は相当左右される事になりそうですもはや石油需給を的確に反映した市場は存在せず、原油相場は乱高下します。原油価格は少なくとも1バレル60~80ドル以上という高値水準でしばらくは推移すると予想され、その結果、日本が貿易赤字に頭を悩ませる日々は、まだ続きそうな雲行きです。

今回は、以上になります。

次回のテーマは、「日本企業から外国のライバル企業へ人材流出が続く理由とは?」です。

【※】当ブログ記事は、AOIA 株式会社のスタッフが個人的予測に基づき作成した資料であり、金融商品取引法に基づく開示資料ではありません。当資料は、飽く迄もAOIA株式会社のスタッフが個人的予測に基づき作成した資料であり、その正確性・完全性を保証するものではありません。当資料中に記載している内容、数値、図表、意見等は資料作成時点のものであり、今後予告なく変更することがあります。当資料中のいかなる内容も将来の投資収益を示唆ないし保証するものではありません。当資料をもとにお客様が金融商品取引行為を行われた場合、金利、通貨の価値、金融商品市場における相場その他の指標に係る変動を直接の原因として生じる利益あるいは損失は、すべてお客様に帰属します。


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